こんにちは!あんずです。
「よしなしごと」のカテゴリーでは、私が好きなように書き物をしています。
今日は、ヘアドネーションをした時の話(後編)です。まだ前編をお読みでない方は、以下の前編を先にご覧ください。
また、ヘアドネーションの詳細について知りたいという方は、ぜひこちらをご覧ください!
ヘアドネーションをした話(後編)
私のカット後の仕上がり希望を一瞬で理解したお兄さんは、「ヘアドネーションのためのカットに使います」と言って小さなゴムをいくつか持ってきた。よくドラッグストアに100個入りとかで売っている、細くて輪が小さくて引っ張りすぎると切れてしまうあれだ。その他にも、お兄さんは鋏や定規を手際よく準備しながら、ヘアドネーションのためのカットの手順を教えてくれた。まず髪をいくつかの束に分け、必要な長さである31cmを図り、カットする手前でそれぞれの束を縛って、その後切るそうだ。
ふんふんと初めて聞くような顔をしてお兄さんの説明を聞いていたが、実は知っている。色々気になってネットで調べていた時に、全部見てしまったのだ。人との会話の中で、実は知っているけど知らないふりして聞いていることってよくあるよなぁ、まぁ人付き合いにはある程度必要だもんなぁ、と鏡の中の自分をぼんやり見つめながら思ったりする。
私がぼーっとしている間にも、お兄さんの作業は進んでいた。鏡越しによく見ていると、私が想定していた髪の長さよりも少し上の部分にゴムが結わえてある。実際に切るのはこのゴムのまた少し上だろうから、切ったら思っていたより短くなるんじゃ…?と思い、少し勇気を出してお兄さんに聞いてみると「髪の長さにもばらつきがあるので、うちでは一番長い髪から測って31cmのところよりも少し長めに取っているんです」との返事だった。なるほど…この点は想定していなかった。しかし、「あ、思っていたより短くなりそうなのでやっぱりドネーションやめます」なんて言いたくないし、言えない。きっと大丈夫、上手く希望に沿って仕上げてくれるさ…とプロの腕を信じて断髪式を待つことにした。
お兄さんの素晴らしい手際により、ほどなくして私のすべての髪は5つの束に分けられ、31㎝を測った上でそれぞれの束がゴムでしっかり結わえられた。「じゃあ切りますね~」とお兄さんが軽い調子で言う。お兄さんが操る鋏が、躊躇なくザクッザクッと束ねられた髪を切っていく。1束、2束…と調子よく切られている間、私は鏡越しにお兄さんの手つきを凝視していた。こんなに凝視しない方がいいかしら、とふと思ったが、私としては2年ほど伸ばし続けた髪に別れを告げるのだから許してとお兄さんの手と切り離される髪を見つめていた。そして最後の1束が切り離されて31cm以上切るというイベントへの緊張から解放されたとき、とても良いことに気づいた。頭が軽い!とても軽い。これで首への負担も軽くなりそうだし、もしかしたら肩こりも改善するかもしれない。シャンプーを使う量や洗髪にかける時間だって少なくて済みそうだし、なによりお風呂からあがあった後のあのわずわらしいドライヤーの時間が短くなるのがいい。軽いっていいなぁと、まだ切りっぱなしでガタガタの襟足を見て嬉しくなった。
その後は、つつがなく進んだ。心配していた髪の長さと仕上がりも、思っていたよりは多少短かったが、仕上がりは満足できるものだった。まぁ髪はすぐ伸びるし人にたくさん会うわけでもないし、これでどこかの子の役に立てるなら小さいことだ、と自分に言い聞かせる。
お会計をして美容院をあとにする時、お兄さんがヘアドネーションのお礼にと個包装されたシャンプーとリンスを4つずつくれた。こんなにいいのですかと聞くと、ヘアドネーションはお客さんの善意で成り立っているものだから、せめてものお礼にお渡ししてるんですとのこと。シャンプーとリンス4回分、ささやかと言えばささやかかもしれないが、このサプライズのお礼に私の心は温かくなった。
美容院は、ヘアドネーションの活動に賛同してヘアドネーション活動をしている団体と寄付を希望する人との橋渡しになっているだけで、実際に寄付を募っている主体ではない。つまり、美容院がお礼をしなくてもなんら不自然ではないのだ。にもかかわらずお礼を渡しているこの美容院には、やさしくて心に余裕のある方がいるのだなと感じた。
最寄りのバス停までの道、短くなった髪が嬉しくて気になって、すぐ触ってしまう。美容院に行く前は緊張しながら歩いていたが、帰りは頭も心も軽くなり、そしてお店の方のやさしさにも触れて温かい気持ちにもなっている。
コロナ禍で人のやさしさに触れることが減っていた。それは仕方のないこと、今は我慢の時だからとじっと耐えていた。しかし、人に対してやさしくあることまで我慢することはない。以前の日常のようにはできないかもしれないが、今の日常だからこそやりやすいことだってあるはずだ。心がささくれてしまいそうな時、人のやさしさが潤いをくれるということは多い。私も、今の生活に合った良い形のやさしさを、自然に与えられるようになりたいなぁと思う。
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